ストーリー

昭和27年に小田原で開かれていたのは北原白秋の没後10周年記念コンサート。指揮をしたのは音楽家の山田耕筰。コンサート終了後、若い女性記者から北原白秋との思い出を尋ねられると「彼のことは語りたくない」と言いながらも少しずつ語り始めました。 

「特別な存在だった…あいつは実に駄目なやつだった…」 

明治43年、詩人の白秋は、与謝野鉄幹・晶子夫妻のバックアップや同時代を生きる詩人や文豪との交流から文壇でも高い評価を受けていました。 

そんな評価とは裏腹に私生活では、隣家の人妻である松下俊子と不倫関係にあり、何かと世話を焼いてくれる与謝野晶子が注意をしても、飄々と素知らぬ顔。また大の酒好きで酒癖も悪く、乱れた生活を送っていました。そんな白秋ですが、持ち前の愛嬌と人懐っこさで、周囲の人からはたいそう好かれており、公私ともに絶頂期を迎えていました。 

すべてがうまくいっていた白秋のもとにある日、俊子が自殺したとの一報が入ります。大急ぎで俊子のもとに駆け付けた白秋。ようやくたどり着くと、そこには自殺したはずの俊子の姿が…喜びもつかの間、その隣には俊子の旦那が… 

現在よりも不倫に対する処分が厳しい時代、白秋は姦通罪で逮捕されてしまいます。 

当然悲観していると思いきや、その後俊子と結婚。しかしその結婚生活も長くは続かず傷心し、入水自殺まで試みるも海水の冷たさに諦めてしまうあたりが、みんなから愛される白秋の人間らしさと言えます。 

ようやく3度目の菊子との結婚で幸せな家庭を築いた白秋のもとに、児童文芸誌「赤い鳥」を創刊した鈴木三重吉から童謡を書いてみないかと誘われます。新境地である童謡でさまざまな作品を生み出す中、続いて三重吉から、「生み出した詩に曲をつけるのはどうか?」と提案を受ける。 

そこで紹介されたのが音楽家である山田耕筰。 

ところが初対面で耕筰の言った「音楽を付けることで詩に命を与えると」いう発言に「自分の詩は死んでいるのか」と猛反論の白秋。三重吉の仲介もむなしく喧嘩別れしてしまいます。 

その後、会うことはないと思われていた白秋と耕筰ですが、大正12年に起きた関東大震災により2人の運命が大きく変わっていきます。関東大震災により命は助かったものの、慣れ親しんだ街並みは、がれきの山と化していました。そんな惨状を目の当たりにして、自分の詩は苦しんでいる人の何の力にもなれないと落胆する白秋。 

そんな時に現れたのが、喧嘩別れをしたはずの耕筰です。落胆する白秋の前で、バイオリンを弾き始める耕筰。そんな彼の音楽に合わせて、自然と手を止め歌い出す子供たちの姿を見て、白秋は、音楽の持つ力や素晴らしさに気付き、たとえどんな苦しい状況でも、日本人に癒しと笑顔を与えられるような童謡を作ろうと決意します。 

その後、2人は耕筰の少年時代の思い出を歌にした「からたちの花」を始め、数多くの童謡を作り上げていきました。時には方向性について、本気でぶつかり合いながらも、お互いの才能を認め合い最高のコンビとして、友情を育みながら、素晴らしい作品を生み出し続けた2人。 

そんな中、日本では戦争が始まり、ありとあらゆる娯楽は禁止されました。 

もちろん音楽も例外ではありません。逃れられない大きな渦の中、それぞれのやり方で音楽の自由を守ろうと戦う2人。 

『この道』は、北原白秋と山田耕筰という2つの才能が、日本を想い、日本の未来を考え、命を削りながら生み出した童謡とぶつかり合いながらも認め合う美しい友情を描いた作品です。